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最高裁平成25年4月9日判決 建物所有権の移転と看板等使用

最高裁平成25年4月9日判決 建物所有権の移転と看板等使用

【事案の概要】
本件は、建物の地下1階部分を賃借して店舗を営む上告人において、同建物の所有者の承諾の下に同建物の1階部分の外壁等に同店舗のための看板等を設置していたところ、同建物全部を譲り受けた被上告人が、上告人に対し、所有権に基づき、地下1階部分の明渡し及び賃料相当損害金の支払を求めるとともに、上記看板等の撤去をも求める事案である。
 なお、原判決中、地下1階部分の明渡請求及び賃料相当損害金の支払請求をいず
れも棄却すべきものとした部分は、被上告人が不服申立てをしておらず、当審の審
理判断の対象となっていない。

【事実関係】
1 本件建物は、渋谷駅周辺の繁華街に位置する地上4階、地下1階の建物である。
2 Aは、昭和34年から本件建物を所有していた。
3 上告人は、昭和39年頃から本件建物の地下1階部分(以下「本件建物部分」という。)でそば屋(以下「本件店舗」という。)を営業しており、遅くとも平成8年9月までに本件建物部分についての賃借権を得た。
4 上告人は、本件店舗の営業開始以降、Aの承諾を得て、本件店舗の営業のために、原判決別紙看板目録記載の看板、装飾及びショーケース(以下「本件看板等」という。)を設置した。その設置箇所は、本件建物の1階部分の外壁、床面、壁面等であり、いずれも地下1階の本件建物部分へ続く階段の入口及びその周辺に位置していた(なお、記録によれば、本件看板等の一部は本件建物に固定されているが、分離は可能であるものとうかがわれる。)。
5 Aは、平成22年1月、本件建物をBに売却した。
6 Bは、平成22年4月、本件建物を被上告人に転売した。その際に作成された売買契約書には、本件建物の賃借権の負担等が被上告人に承継されること、本件建物に看板等があることなどが記載されていた。

【判旨】
 前記事実関係によれば、本件看板等は、本件建物部分における本件店舗の営業の用に供されており、本件建物部分と社会通念上一体のものとして利用されてきたということができる。上告人において本件看板等を撤去せざるを得ないこととなると、本件建物周辺の繁華街の通行人らに対し本件建物部分で本件店舗を営業していることを示す手段はほぼ失われることになり、その営業の継続は著しく困難となることが明らかであって、上告人には本件看板等を利用する強い必要性がある。他方、上記売買契約書の記載や、本件看板等の位置などからすると、本件看板等の設置が本件建物の所有者の承諾を得たものであることは、被上告人において十分知り得たものということができる。また、被上告人に本件看板等の設置箇所の利用について特に具体的な目的があることも、本件看板等が存在することにより被上告人の本件建物の所有に具体的な支障が生じていることもうかがわれない。
 そうすると、上記の事情の下においては、被上告人が上告人に対して本件看板等
の撤去を求めることは、権利の濫用に当たるというべきである。

【コメント】
穏当な判断だと思います。逆に本件看板等の撤去を認めた高裁判断は誠に遺憾。

フッ素が含まれている土地と民法570条



最高裁判所第3小法廷判決 平成22年6月1日



<事案> 



1 土地の売買契約締結



2 1ののち、環境基本法16条1項に基づき、人の健康を保護し、及び生活環境を保全する上で維持されることが望ましい基準として定められた平成3年8月環境庁告示第46号(土壌の汚染に係る環境基準について)の改正により土壌に含まれるふっ素についての環境基準が新たに告示された。 さらに土壌汚染対策法及び土壌汚染対策法施行令が施行された。同法2条1項は,「特定有害物質」とは鉛、砒素、トリクロロエチレンその他の物質(放射性物質を除く。)であって,それが土壌に含まれることに起因して人の健康に係る被害を生ずるおそれがあるものとして政令で定めるものをいう旨を定めるところ、ふっ素及びその化合物は同令1条21号において,同法2条1項に規定する特定有害物質と定められた。



3 2ののち本件土地に基準値を超えるフッ素が含まれていることが判明



 



<判旨>



 「売買契約の当事者間において目的物がどのような品質・性能を有することが予定されていたかについては、売買契約締結当時の取引観念をしんしゃくして判断すべきところ、前記事実関係によれば、本件売買契約締結当時、取引観念上、ふっ素が土壌に含まれることに起因して人の健康に係る被害を生ずるおそれがあるとは認識されておらず、被上告人の担当者もそのような認識を有していなかったのであり、ふっ素が、それが土壌に含まれることに起因して人の健康に係る被害を生ずるおそれがあるなどの有害物質として、法令に基づく規制の対象となったのは,本件売買契約締結後であったというのである。そして、本件売買契約の当事者間において、本件土地が備えるべき属性として、その土壌に、ふっ素が含まれていないことや、本件売買契約締結当時に有害性が認識されていたか否かにかかわらず、人の健康に係る被害を生ずるおそれのある一切の物質が含まれていないことが、特に予定されていたとみるべき事情もうかがわれない。そうすると、本件売買契約締結当時の取引観念上、それが土壌に含まれることに起因して人の健康に係る被害を生ずるおそれがあるとは認識されていなかったふっ素について、本件売買契約の当事者間において、それが人の健康を損なう限度を超えて本件土地の土壌に含まれていないことが予定されていたものとみることはできず、本件土地の土壌に溶出量基準値及び含有量基準値のいずれをも超えるふっ素が含まれていたとしても、そのことは、民法570条にいう瑕疵には当たらないというべきである。



以上