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最決 平成26年6月26日 保証会社による弁済と賃貸借契約解除

最決 平成26年6月26日
保証会社による弁済と賃貸借契約解除

【事案の概要】
本件は、本件建物の賃貸人である被控訴人X1が、賃借人の控訴人に対し、賃料不払を理由とする催告による債務不履行解除を原因として本件建物の明渡しを求め、控訴人との間で賃借人の債務の保証委託契約を締結して、本件賃貸借契約の保証人となった被控訴人X2が、控訴人に対し、被控訴人X2が控訴人の未払賃料等の5か月分について代位弁済した金員の支払を求めたもの。

【原審の判断】
1 控訴人は、平成24年4月分~平成25年3月分までの賃料等を支払っていない。よって、被控訴人X1は本件賃貸借契約を解除することができる。
2 控訴人は、平成24年4月分~平成25年1月分の賃料等については、被控訴人X2がこれを代位弁済しているから、控訴人に賃料等の不払はないと主張する。そして、証拠(省略)及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人X2は、被控訴人X1に対し、平成24年2月~平成25年6月まで、毎月の賃料等7万8000円に相当する金額を代位弁済していることが認められる。
3 本件保証委託契約のような賃貸借保証委託契約は、保証会社が賃借人の賃貸人に対する賃料支払債務を保証し、賃借人が賃料の支払を怠った場合に、保証会社が保証限度額内で賃貸人にこれを支払うこととするものであり、これにより、賃貸人にとっては安定確実な賃料収受を可能とし、賃借人にとっても容易に賃借が可能になるという利益をもたらすものであると考えられる。しかし、賃貸借保証委託契約に基づく保証会社の支払は代位弁済であって、賃借人による賃料の支払ではないから、賃貸借契約の債務不履行の有無を判断するに当たり、保証会社による代位弁済の事実を考慮することは相当でない。なぜなら、保証会社の保証はあくまでも保証委託契約に基づく保証の履行であって、これにより、賃借人の賃料の不払という事実に消長を来すものではなく、ひいてはこれによる賃貸借契約の解除原因事実の発生という事態を妨げるものではないことは明らかである。よって、控訴人の上記主張は理由がない。

【最高裁】
控訴人の上告受理申立を受理せず。

【コメント】
1 建物賃貸借契約の賃借人の賃料支払債務についての保証委託会社(賃貸借保証会社)による未払賃料の支払(代位弁済)が債務不履行解除に及ぼす影響の有無について
債務者である賃借人との間の賃貸借保証委託契約に基づき建物賃貸借契約の保証人となった者(不動産賃貸実務上の賃貸借保証会社)については、第三者弁済ないし保証債務の履行としての弁済をすることができ、賃貸借保証会社による当該弁済によっても、対賃貸人との関係においては、当該未払賃料債務は消滅する効果が生ずることになるから、賃貸人による賃貸借契約の解除の意思表示の前に当該消滅の効果が生ずる限り、債務不履行(履行遅滞)による契約解除の効果は生じないことになると考えられる。同様に、賃貸借契約における賃借人の保証人が保証債務の履行として契約解除前に未払賃料を弁済した場合に、契約解除の効果が生じないことについても異論がないと思われ、この場合、例えば、保証人は債務不履行に基づく契約解除による約定の賃料の2倍相当の損害賠償義務についての保証債務の履行義務を免れることになる。
以上の観点からすると、本件のような賃貸借保証会社の弁済の場合に、以上と異なる法解釈を採ることのできる理論上の根拠について、原判決は、十分な説明をしていないとの考えも否定できないように思われる。

2 他の法律構成
(1)賃料未払に基づく解除との構成
ただし、本件においても、賃貸借保証委託契約の約定において、賃貸借保証会社が賃借人の賃料債務を弁済するのは、賃借人が毎月の賃料支払時期を経過してその履行を遅延したときであるから、契約解除の時点(平成25年3月4日)において、少なくとも1か月分の未払賃料があると推認することができる(もっとも、その点をきちんと認定するべきと思う。)。弁論の全趣旨によると、2か月分の未払賃料があると認められるから、民法541条による催告解除の要件事実に欠けるところはない。
(2)賃料滞納常態化による無催告解除
仮に、催告のない債務不履行解除の場合でも、原判決が説示するように、賃借人のそれまでの常態化している賃料滞納の事実は、賃貸借保証会社による弁済によってもその消長に影響しないことは明らかであるから、これらを信頼関係の破壊を基礎付ける事実として無催告解除を有効とする請求原因を構成するものと解することは可能であり、原判決の結論には影響しないと考えられる。
(3)賃料滞納常態化及び保証会社に対し請求するようにという態度に基づく無催告解除
賃料不払による債務不履行解除ではなく、賃借人による賃料滞納の常態化及び賃貸人の支払督促に対して連帯保証人である保証会社に対して請求をするように求めて自ら賃料を支払おうとしない態度を示していることによる信頼関係の破壊を理由とする契約解除の法律構成による場合にも、原判決の結論には影響しないと考えられる。

結局、本決定は原判決の結論を是認したに過ぎないものと考えられる。